その日は雨だった。

朝は晴れていたのでうっかりと傘を忘れてしまい、帰る時刻にはザーザー降りとなっていた。

こういう日に限って折りたたみも忘れてしまう。

仕方ないのでコンビニまで走って傘を買おうと決め、鞄などを濡らさないように丸めて抱くと、思いきって走り出そうとした。


「あれ、南澤さん。傘ないんですか?」


濃紺のスーツを身にまとった彼が傘を差そうとして動きを止めてこちらを見ていた。

丸くした目に私の姿が映っているのに気づいて一瞬ドキリとした。


「あー、うん。傘忘れちゃって」

「……駅まででよければ一緒に入ります?」

「えっ!」


うっかりと過剰な反応をしてしまう。

私の人生において誰かの傘に入れてもらうといったことは一度もなかった。

だからお昼に誘うくらいの軽い声かけに戸惑い、思わず挙動不審な態度をとってしまう。

平常心を忘れたら負けだ。落ち着こう。

そう思い、自分を落ち着かせると私は両手を握りしめながら笑って長身の彼を見上げた。


「いいの? コンビニで買おうと思ってたからそこまで入れてくれたら助かるんだけど」

「……もちろんです。じゃ、行きましょうか」


傘を差し、その手を近づけてくる彼に対し、私は一歩一歩詰め寄りながら傘に入り、隣に立つ。

思っていた以上の身長差と、意外と幅広な肩に驚き、私の顔は途端に熱くなり、心臓がドキドキと高鳴り出していた。