信用した人に裏切られた苦しさはよく分かる。しかも、自分の敵とも言える浮気相手を庇う為の裏切りだなんて、プライドも傷付いたんだろう。
 ミドリの兄の行動に怒りを感じるし、軽蔑する。そんな兄に従い黙っていたミドリも。

「お兄さんとミドリのしたこと、最低だよ」

 私が怒りのままがそう告げると、ミドリの顔が大きく歪んだ。

「沙雪に言われなくても分かっている」

 リーベルで会った時とは大違いの冷たい態度で、私を睨む。

「ちょっと何その言い方、私はね……」

 散々巻き込まれて、迷惑している。そう言おうとした私の言葉は、秋穂のヒステリックな声に遮られた。

「部外者は黙っててよ!」

 私はこみ上げる怒りを飲み込み、口を閉ざした。よく部外者なんて言えるものだ。
 自分の行動を忘れたのだろうか。

「薫君、家に帰ってからちゃんと説明して!お義父さん達の前で!」
「分かった……秋穂、ちゃんと話すから落ち着いて」

 ミドリは私に対する態度とは正反対の、気遣い溢れる口調で秋穂を宥める。イライラしながら黙っていた私は、ついにしびれを切らして口を開いた。

「ねえ! 家に帰るなんて簡単に言ってるけど、私への説明はどうなるの?」

 ミドリと秋穂はハッとした様子で私を見た。

「今、それどころじゃ無いの!」

 身勝手な態度に、不快感でいっぱいになった私が反論しようとすると、ミドリまでが、面倒そうな顔をしてそう言い放った。

「悪いけど今は無理だ。沙雪には後で説明するから」

 この二人……私を何だと思っているのだろうか。

「そんな勝手が通用すると思ってるの? ちゃんと説明しないとこの人を通報するからね」

 秋穂に目を遣りながら言うと、ミドリが私を蔑むような目で見ながら答える。

「秋穂がしたことは僕が謝る。だけど証拠が無ければ警察は何もしない。脅しても無駄だよ」

 その態度から、私を敵として見ているのだとはっきりした。

「秋穂、移動しよう」

 私が黙ったのを見て、ミドリは秋穂に優しい声をかけて立ち去ろうとする。
 だけど、このまま行かせない!

「証拠なら有るけど! 彼女からの手紙は全部保管してるし、今日、私のポストの前での行動は全て記録したから」

 咄嗟に出た嘘だったけれど、ミドリと秋穂は顔色を変えた。

「……嘘よ、そんなの」

 秋穂が震えながら言う。

「本当だけど。あなたの行動すごく怪しかったから観察してたの」