ミドリは困惑しているようだった。けれど私の言葉に、事態を察したのか、急に態度を変えてきた。

「あなたの兄嫁が、私のポストに手紙を入れてたんだけど知ってた?」
「まさか! 彼女はもうそんなことはしていない」
「もうってことは、以前はしていたわけね。残念だけど今でもしてるみたいよ。現行犯で捕まえたから」
「それで秋穂と居るのか、彼女は怯えてるようだけど何かしたのか?」

 まるで私を責めるようなミドリの言葉に、イライラした。どっちが被害者だと思ってるの?

「警察に行くって言ったわ。当然でしょ?」
「警察? 待ってくれ!」

 ミドリは必死に止めようとする。

「この人を警察に突き出されたくなかったら、すぐに来て。私のアパート近くのファミレスで待ってるから」
「分かった、三十分で行くから」

 秋穂の身を案じているからか、ミドリは私の言葉に従った。
 電話を切り、緑川秋穂を連れてファミレスに向かう。
 彼女が逃げないように見張りながらも、内心は怒りでいっぱいだった。

 ミドリは明らかに秋穂が何をしていたのか、知っていた。その上で庇っていたのだ。
 もしかしたら一番初めに来た手紙も、ミドリが出したんじゃ無かったのかもしれない。

 リーベルで会った時も、ミドリは秋穂の事を殆ど語らなかった。
 自分のせいにして、丸く収めようとしたからだ。

 怒りが収まらないまま、ファミレスの扉を開く。
 私の身を心配するふりをして、結局騙していたミドリが許せなかった。
 さっきからビクビクしているくせに、自分がやった犯罪について謝りもしない秋穂も許せない。

 ミドリが来るまでの時間を、私達は気まずい沈黙の中で過ごした。
 周りが騒がしいファミレスで、逆に良かった。
 決して私と目を合わせようとしない秋穂をさり気なく観察する。

 丸い顔に全体的に小作りなパーツ。フワフワしたミディアムヘア。一見して 小動物のような、守ってあげたくなるような雰囲気の人だと思った。
 ミドリが庇いたくなる気持ちも分かる。だからと言って、怒りが収まる訳では無いけれど。

 一言の会話も無いまま時間は過ぎ去り、募るストレスで耐えがたくなった頃、ミドリが慌てた様子でやって来た。

「秋穂、大丈夫か?」

 ミドリは私には見向きもせず、秋穂の隣に座った。心配そうに声をかける。

「薫君……ごめんなさい、もうしないって約束したのに私……」

 秋穂が、体から力を抜くのが分かった。