「じゃぁ、一応――」

俺の手から一旦紙切れが離れる。

それからしばらくして、何か追記事項を書き加えられたそれが再び俺の手に戻ってきた。


「一応、私の電話番号も伝えておきますね。もし、何かあったら」

江麻先生の言葉に、驚いて顔をあげる。

俺と目が合うと、彼女はふわりと微笑んで今度こそ玄関のドアを外に向かって押し開けた。


「じゃぁ、失礼します」

柔らかい笑顔を残して、彼女がドアの向こうに消える。

手元には、2つの電話番号が書かれた紙切れが一枚。

それをそっと手の平で握り締めると、江麻先生に微笑まれたときに感じたような不思議な安心感がある。


俺は手の平の中にその安心感を閉じ込めたまま、朔が眠る狭い部屋にゆっくりと引き返した。