「朔の母親の病院?」

電話でそれを訊ねたとき、親父の声が少し動揺したのがわかった。


「なんでそんなことを知りたいんだ?」

「あいつ、母親に渡したいものがあるみたいだから」


親父が俺がチビの病院の場所を知りたがる理由をしつこく追求してくるから、俺は仕方なくそう答えた。


「渡したいもの?」

「シロツメクサの花」


俺が答えると、親父は電話口でしばらく沈黙した。


「陽央。お前も一緒に病院に行くのか?」

「あいつ一人だけで行かせたらまたこの前みたいに迷子になるだろ。だから、病院まで付き添って外で待っていようと思ってる」


俺がそう答えると、親父はようやくチビの母親が入院している病院を教えてくれた。


「朔とうまくやってくれているんだな」

電話を切る直前、親父が少し嬉しそうに言った。


「別に、そんなんじゃない」


俺は素っ気無い声で答えると、親父より先に電話を切った。