課長の企みは、こうだ。
パラリンピックに出場して金メダルを取れば
私の父は、活躍した課長を見直すと思ったのだ。
確かに、これだけ活躍を見せたら自慢をしたくもなるし
頑固だが見栄っ張りな父は、なおさらそうするだろう。
それだけではない。課長が私にプロポーズしたことは、
たくさんのメディアやネットに知れ渡ってしまった。

東京パラリンピックは、オリンピックと同じで
日本で行われたため大きく撮り上げられる。
しかも課長は、金メダルに大会新記録と次々と
塗り替えた。その上に公開プロポーズをしたものだから
なおさら注目を浴びてしまった。
ネットに今までの動画を影響しているせいかもしれないが。

もうネットなんて、その話題に持ちきりになり
私を抱きかかえた写真なんて“素敵”とか
“私もされてみたい”とか書かれており
あちらこちらに拡散されてしまった。

課長だけではなく私もちょっとした
有名人になってしまった。
こんな中で結婚に反対されたと言うものなら
立場が悪くなるのは、お父さんの方だ。
反対なんか出来る訳がない。
まさか、それを見込んで計画を立てたの!?

「切り札のカードって言うのは、1番最悪な時に
出す方が面白い。喜ばすなら最高の日にだ。
あれだけ頑固に反対していたお前の父親が今だと
真逆になり俺を誉めちぎっているぞ。
実に気分がいいものだな。まぁ、反対したとしても
もうすでに何枚か入手している。
これからでも、俺を反対したことや
非礼の数々じわじわと後悔させるのも悪くない」

フフッと課長は、さらに笑っていた。
課長を改めて怒らすと怖い人だと実感した。
もう何枚かって……一体なんのカードなの!?
じわじわと後悔をさせるなんて
課長……すでに何倍返しをしていますよ?

「さて……どうするかな」

お父さん逃げて!!
いや、むしろ謝って下さい。
課長の何倍返しの餌食になる前に!!

相変わらず魔王が降臨してしまった。
恐ろしい……。
私は、もう苦笑いするしかなかった……。

それから数日後。パラリンピックの影響も受けて
同じハンデを持つ人達が自分も義足や
陸上をやりたいと言ってくる希望者が増えたらしい。
健常者の人達も陸上をやり始めた人も増えたとか……。
その中でも彼もまた影響を受けた1人だった。

「俺、決めた。俺もいっぱいリハビリをして
日向兄ちゃんみたいになるんだ!!」

病院にお見舞いに行くと翼君が
手術を受ける決意をしてくれた。
お母さんは、涙を流しながらお礼を言ってきた。

そしてリハビリをたくさんして
課長みたいになりたいと言ってくれた。もうすっかり
ファンになったみたいだった。良かった……。
私は、喜んで課長を見るとクスッと笑っていた。
課長も嬉しそう。

「そうか。そう言ってくれると信じていたぞ。
なら、これをお前にやる」

すると1枚の大きな封筒を差し出してきた。
何かしら?これは?
翼君も不思議そうな表情をしていた。