驚くことに走り続けるたびに
どんどんとタイムを縮めて行く。
それでも納得しないのか、また走りだそうとする。
「日向君。そろそろ休憩したらどうだ?」
「いえ。まだやれます」
課長のストイックな性格は、ここにも発揮していた。
凄い汗だくになっているのにも関わらず
まだ走ろうとする。
どうして、そこまで熱心にやれるのだろうか?
課長が速いのは、十分に理解したつもりだ。
なのに諦めようとしない。
そもそも義足で、これだけ走れるものだと知らなかった。
インターハイなら出れるレベルの才能を持っているのも
驚かされた。だが一番驚かされたのは、
課長は、走るたびに清々しい表情をしていた。
まるで走るのが好きで仕方がないかのように。
それは、会社では
けして見ることの出来ない表情だ。
いいなぁ……楽しそう。
彼を見ていると身体中がそわそわしてくる。
私も……あんな風に走りたい。
全身に風を浴びて前だけを向いて走って行くのは、
きっと爽快の気分だろう。昔の私を思い出させる。
自分もあんな風に走っていた時があった。
とにかく走るのが好きで走りたくて仕方がなかった。
そして無我夢中で走り続けた。胸がざわつく。
「走りたくなってきた?」
「えっ?」
篠原さんに言われて驚いてしまう。
一瞬心の中を見透かされたのかと思った。
さらにクスッと笑う篠原さん。
「彼の走りを見ていて刺激される子が多くてね。
気持ち良さそうに走るだろ?日向君」
「は、はい……。」