私は、戸惑っていたら後ろから課長が
「二度と会わすか!!」と言って
キレて電話を切ってしまった。

後で謝罪の電話が来て喜んで協力すると
言ってくれた。もちろんデート無しで。
撮影をしたらパソコンに送ってくれると
約束をしてくれた。これで準備万端だ!
たくさんの人達が観てくれるといいなぁと思った。

そして次の日から私は、スポーツクラブに行くと
練習がてら課長の走りをビデオカメラで撮影した。
ジッとビデオカメラ越しから課長を覗き込む。

相変わらずフォームが綺麗だ。
力強い走り方をする。だが、いつもより練習が多くて
心配になった。課長は、けして手抜きを抜かない。
このパラリンピックを真剣に取り組んでいるのが
よく分かる。ロンさんが相手となると
悠長なことは言えないのも分かるけど……。

大丈夫かしら?身体のことが心配になった。
無理をしていないといいけど……。
とにかく栄養になる物を作り課長に食べさせた。
撮影は、続き松岡さんや源さんのも送られてきて
いくつか分けて録画としてアップした。

解説も入れると反響は、少しずつだが出てきた。
初めてハンデのある選手の走り方を知る人。
知っていたとしてもリアルで見たことがない人など
いろんな人達が観てくれた。
もちろん中には、心のないことを書いてくる人もいた。
それには、怒りを感じた。

すると課長は、そこからアドレスを暴き何やら
小細工していた。巧みにパソコンを操作する課長も
凄いが一体、何をしているのかしら?

「課長。何をしているのですか?」

「あぁ、ちょっとな……」

私のパソコンの画面を見ながら課長は、ニヤリと笑った。
思わずゾクッと背筋が凍った。怖い……。
絶対、何かやったんだ……!?

その魔王化になっている表情の時は、
倍返しを企んでいる時だ。
何をしたのか怖くて聞けなかったけど。
私は、苦笑いするしかなかった。ほどほどにね。 

「あ、ロンからメールが来たぞ。動画も付いている」

すると課長が私のノートパソコンから
メールを見せてくれた。英文で書いているので
内容が分からなかったけど動画をクリックして
観てみると走っているロンさんの姿が映っていた。

その走りは、課長に負けず劣らず
綺麗なフォームで速かった。
いや、それ以上に美しさとタイムに驚かされた。
さすが世界絶対王者や義足の貴公子と
言われているだけはある。
こんな凄い人だったんだ?