「まったく。熱い物を食べる時は、いつも
気を付けろと言ってるだろーが!?小野木。
布巾をもう1枚持って来い。雑巾もだ!」
「あ、はい。」
私は、慌ててキッチンに行き布巾と雑巾を水に濡らした。
あれ?震えがいつの間にか止まっていた。
しかも、慌てたせいか気持ちも落ち着きを取り戻していた。
不思議だ……。あ、まさか!?
パッと睦月君の方を見た。
そうしたらこちらをジッと見つめていた。
もしかしてわざとひっくり返したのかしら?
行儀のいい睦月君が、誤ってひっくり返すなんて
普段なら有りえない。しかもタイミング良く…。
お陰で震える気持ちも手も落ち着いたし誤魔化せた。
先生達も拭くのに必死でその話をしなくなったし
「おい、小野木。まだか!?
それと睦月の服が濡れているから着替えさせろ。
後は、俺がやるから」
「は、はい。」
慌てて布巾と雑巾を絞り先生に渡した。
そして睦月君を見る。確かに服が濡れていた。
あ、やっぱり。濡れているじゃない!?火傷は?
私は、抱き上げて着替えるために部屋まで連れて行く。
「本当に火傷していない?痛い?」
心配そうに尋ねると睦月君は首を振った。
我慢強いから心配だわ。
部屋に入ると上着を脱がせ新しい服に着せる。
そして睦月君に聞いてみた。
「ねぇ、もしかして…私のためにわざと
ラーメンをこぼしてくれたの?」
黙ったまま何も言わない。
これは、どっちなのだろうか?と思っていると
私に向かって
「大人って……デリカシーないよね」と呟いてきた。
えっ!?私は、驚いて唖然としてしまった。
まさか、睦月君の口からデリカシーという言葉が
出てくるとは、思わなかったから
確かに……デリカシーって言ったわよね?
聞き間違い…ではないわよね?
「そ、そうね……」