紅葉みたいな小さく可愛らしい手を握り締めて
歩いて帰るのだが会話がまったくない。
チラッと隣を見ると睦月君は、無表情のままひたすら
前を歩いていた。

何を話しかけたらいいのだろうか……?
会話が出来ないと内容まで思い浮かばない。
そういえば、先生といつも
どんな会話をしているのだろうか?
いや……そもそも先生との生活風景ってどんなの?

「睦月君は、パパとどんな会話するのかな?」

思わず気になり睦月君に尋ねてみた。
するとこちらを見つめるが返事がない。
あ、この質問ではダメだわ!!
会話が嫌いな睦月君にどんなの?と聞いても
彼は、困るだけだろう。

「えっと…パパとたくさんお話する?」

言葉を変えて言い直してみた。そうすると顔を横に振った。
つまりたくさん会話は、しないということか。
無口な睦月君にクールな蓮見先生。
確かに想像しただけでも会話をたくさんするようには
まったく見えない。
何だか普通と違う親子の関係性に疑問を抱いた。

お互いに無関心とは違うだろう。
睦月君は、パパの事が好きだと頷いていたし
大丈夫だろうと思うけど……。

何やかんやと考えていたら先生の自宅マンションまで
戻ってきてしまった。インターホンを鳴らすと
しばらくして先生が出てくれる。
オートロックを開けてもらいエレベーターに乗り込んだ。
部屋の近くまで来ると先生がドアを開けて
待っていてくれた。

「悪いな。迎えに行かせて」

「あ、いえ……とんでもありません」

謝罪されたので驚いてしまう。
そうしたら睦月君は、私の手を離し先生の所に
駆け寄って行く。
すると先生は、ひょいと睦月君を抱き上げた。

「中に入れ」

先生は、それだけ言うとさっさと中に入って行く。
えっ!?私は、慌てて部屋に入る事にした。
先生は、睦月君を抱っこしたまま靴を脱がせていた。

「うがいと手洗いをするんだぞ。小野木。
お前は、冷蔵庫にあるおやつを適当に食べさせておけ」

私に話しかけると睦月君と靴をおろし頭をポンと撫で
また自分の部屋に入ってしまった。
えっ?それだけ?睦月君が、せっかく帰って来たのに。
睦月君も何も無かったように自分の部屋に行くと
荷物を置きうがいと手洗いをするために洗面所に行く。