「あ、いえ……自分で払います」

手当てまでしてもらったのに……。
しかし美紀子さんは、それを聞くとクスクスと
笑っていた。えっ……?

「あぁ、いいのよ。せっかくなんだし食べて行って。
ケーキ代は、翔馬君のバイト代に
差し引いておくから心配しなくても大丈夫よ」

「えっ!?差し引くってひでぇ……」

「当たり前でしょう。そんなに甘くはない。
まったく……この子は」

美紀子さんの言葉にショックを受ける翔馬君だったが
何だか親子のようなやり取りに自然と笑みが溢れた。
何だか……いいな。温かい感じかして。
私は、そんな風に思えた。

「チェッ……まぁいいや。で?菜乃。
どれにするんだ?俺がおごってやるよ」

「えっ?本当にいいの?私、お金払うよ?」

さすがに冗談だと思っていた。
それは申し訳ない。
私は、慌ててカバンから財布を出そうとした。

「いいって、いいって。
誘ったのは、俺なんだし……男に二言はない」

二言って……。

「お、随分と男らしいことを言うじゃねぇーか?
で、なんだ?翔馬の彼女でも連れて来たのか?」

「祐一郎叔父さん!!」

すると奥からパティシェの格好をした中年男性が
出てきた。どうやらこの人が言っていた翔馬君の
叔父さんらしい。明るい雰囲気の人だった。
いや。それよりも彼女って!?

「ちげぇーよ。さっきそこで泣いていたから
拾ったんだよ!」