天気予報は曇り。
 降水確率50%。
 降るか降らないか五分五分の勝負ってところか。
 何と勝負してるかってのは放っておいて……。
 長い傘と折りたたみ、降らないことを祈れば折りたたみの方が荷物にはならない、のは当然なのだが……如何せん俺はそんな洒落たもの持っていない。
 いつだったか、修学旅行でカッパか折りたたみ傘かと選択肢があったけど、迷うことなくカッパを選んだ。おっと、レインコートって言えって妹から忠告を受けたんだった。
「面倒くさい」
 一人ごちたら睨まれたのはまた別の話。
 とにかく、電車と徒歩通学の俺は渋々、嫌々……言い方はどちらでもいいか、傘を持っていくことに賭けた。

 お昼過ぎから雲が厚くなり、どんより黒く空を覆い始めた。
 泣き始めるのはいつか、なんて思いながら放課後。
 教室を出る前に憧れてる椿さんを見かけたのはその時だった。

 靴箱で靴を履き替え、外へ……出ようにもその時に雨が降り始めた。
 先に出た椿さんだったが、帰ろうともせずに立ち止まっている。
「帰らないん?」
 俺は声をかける。
「皆口くん……うん、傘持ってきてなくて」
「そっか」
 まぁ本来ならここでスマートに傘を見せて一緒に帰ろうとか言えれば格好いいんだろうけど、高校2年の今までモテ期到来ないですから、期待される方が間違っている。
 誰も期待していない?
 ごもっともで……。
「あ、あのさ……」
 緊張で声が裏返る。
「よかったら俺、傘持ってるから一緒に」
「いいの?」
 言い終わる前に察してくれたのか、椿さんは笑って、
「じゃあお願いします」
 小さく頭を下げた。
「は、はい」
 教室でもそんなに喋ることもなく、数えるくらいの仲。
 そんな憧れの人と一つ傘の下……なんて、
「神様ありがとう」
「何か言った?」
「ああ、いや……傘持ってきててラッキーって」
 本当にその通りだった。



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「なにあの顔」
 先に学校を出ていった二人を私は見ていた。
 皆口くんがなんとなく椿さんに憧れていることも知っていたし、多分相当緊張していたこともわかっていた。
 だから、あんな顔になるなんて当たり前のことなんだろうけど。
 正直私にとってはおもしろくない。
「すごくおもしろくない」
 私はしっかりと折り畳み傘を持ってきていた。
 こういうところも自分でおもしろくないこともわかってる。
 適度な距離を保ちながら二人の後をついていく。
 まるでストーカー。
 だけど、二人は電車通学、そして私も電車通学。
 目的地は同じ駅なんだから仕方ないよ。

 でもさ、緊張しすぎで自分はびっしょりなの気づいてる?
 相合傘の距離感もわかんないほど、多分緊張しすぎて、彼女を濡らせないようにって頑張ってるんだよね。
 不器用かよ。
 そして……大好きかよ。
 思って一人沈む私。
 苦しい。
 ちょうど降る雨も相まって、ここは水槽の中かと見間違う。
 ブクリと吐いた息はどこまで上っていくのか。
 





「皆口くんありがとう、じゃあね」
 そう言って駅に着くと椿さんは俺と反対方向のホームへと向かった。
 ぎこちなくあげる右手。
「はい」
 その時予想もせずにタオルを差し出された。
「へ?」
「体半分濡れてる」
「そんなに?」
「そんなに」
 気づかなかった。
「そりゃあんだけデレデレしてたらね」
 俺の心を見透かしたような答え。
「あ、ありがと」
「お礼はいらない。風邪ひくからちゃんと拭くんだよ」
「おう」
 俺はタオルを受け取り名前を呼ぼうとして……彼女の名前を知らなかった。




 巡り巡る想いは一方通行
 矢印向けても刺さることなく
 相手を想うばかりが片恋ならば
 相手を庇うことが両想いなのでしょうか
 目立つ存在目立たぬ存在
 ひっそりと佇むそんな華でいたい
 願ったところでやはり貴方に認めてほしくて
 こんな我儘今だけと
 貴方に傘を差し出します
 どうか総ての苦から貴方を守る屋根になれますよう