昔から、読書好きな嶺さんに連れられて僕は子供の頃からよく図書館に通った。
絵本や児童書、図鑑、小説……様々な本に触れるうちに、僕も本が好きになっていった。
特にその中でも、小説に一番のめり込んだ。
ページをめくるたび、世界が広がる感覚。
知らなかった知識、考え方、感情、さまざまな感覚を得た。
以前依も言っていた通り、物語の中では僕はなににでもなれる。
かっこいいヒーロー、最強の悪役、事件を解く探偵、一匹の猫。
現実では勉強しか取り柄のない僕も“何者”かになれた。
いつしか読むだけでは足りず、自分もこんな話を書きたい、表現する側になりたいと思った。
『勉強』『将来』と、父からその言葉で抑圧される中、少しの時間をやりくりして物語を書ける瞬間が楽しかった。
そんなふうにして書いたものを読んで依が『面白い』と笑ってくれたとき、このうえない嬉しさを感じたんだ。
僕の描く世界を、感情を、理解し共感してくれる。
それが、涙が出そうなほどうれしかったんだ。
だからこそ、否定され、文字を綴ったノートを破かれた悲しみは深く。
夢が折れるのは一瞬だった。