ようやく咲いた桜は短い見頃を終え、一瞬で花びらを落として散った。



辺りは緑色に染まり爽やかだけれど、北国特有の肌寒さがまだ残る、6月3日。

いつもと変わらぬ教室で、いつも通り授業を終えた僕は、鞄に教科書を詰めて教室を出る。



そこに、迎えに来る姿は見えない。

ついひと月半前までは当たり前に聞いていたにぎやかな声も聞こえない。



周りもよく確認せずに廊下に出ると、丁度歩いてきた女子ふたり組のうちのひとりとぶつかってしまった。



「きゃっ」

「悪い、大丈夫か?」

「うん、大丈……」



彼女は言いかけながら僕の顔を見ると、はっとして、苦笑いでその場を去る。



「ねぇ、今の人ってさ」

「うん、橘さんと付き合ってた人だよね。なんか気まずいわー」



声を潜めて話しているつもりなのだろうけれど、静かな廊下ではふたりの声は丸聞こえだ。

それを背中で聞きながら、僕は彼女たちと正反対の方向へ歩いて行く。