9月。

子供達の夏休みが終わり、小児病棟も静かになった。
数日前まで、怒られながら廊下を疾走していた少年達も、プレイルームで宿題に向かっていた中学生達の姿も今はない。

「桜子先生、おはようございます。なんだか急に静かになりましたね」
病棟師長が笑顔を向ける。

病棟に患者が少ないのは、基本的にうれしい。
病気の子供がいないって事だもの。

「しばらくは、師長も部屋割りの心配がなさそうですね?」
「はい。助かります」

病院に夏休みなんて関係無いように思えるが、実はある。
小児病棟へ入院してくるのは、15歳までの子供達。
しかし、時期によって入院患者の年齢層は偏っていて、
冬のインフルエンザや感冒の時期には赤ちゃんで一杯になるし、
夏休みの時期には検査や手術で予定入院の小中学生であふれる。

「桜子先生。おはようございます」
珍しく果歩先生が声をかけた。

「おはよう」
私も、精一杯の作り笑いで返した。


その日、大きな急変も緊急入院もなく、穏やかに午前中が終わった。
私は、昼休憩のため休憩室へ。
院内のコンビニで購入したお弁当と味噌汁を温める。

「桜子先生。森先生とランチじゃないんですか?」
意地悪そうな果歩先生。
周りのスタッフは聞こえないふりをしてくれている。

「今日はお弁当の気分なの」
「別れたんですか?」
はああー?
思わず睨む。

この子は何でこんなに無神経なのだろう?

「もう、余計なことを言ってないで昼食すませて」
多少不機嫌気味に言うと、私も食事をとる。

すると、果歩先生は妙なことを言い出した。

「森先生がお見合いして結婚するらしいって父が言ってましたよ」

えええ?

そう言えば、果歩先生の実家は地元の開業医。
父親は大学の臨時講師もしている。

「果歩先生。噂なんて、当てになりませんよ」
見かねた看護師がフォローしてくれた。

しかし、
「父が言うんだから、噂じゃないですよ。お見合いの話は本当にあるんですから」
看護師を睨みながら、私に言う。
なんだか、そこにいるみんなが居心地の悪い気分になった。

「果歩先生。みんな休憩してるんだから、噂話はやめましょう?たとえそれが事実でも、本人のいないところですれば噂話だから」
平常心を装って、出来るだけ穏やかに話す。

「なんだか余裕ですね?でも、気をつけた方がいいですよ」
吐き捨てるように言うと、果歩先生は休憩室を出て行った。

「何?」
「感じ悪い」
「何様よ」
今度はスタッフ達が陰口を言う。

「こらこら、やめなさい。あなたたちも一緒よ」
さすがに、ベテラン看護師が注意。
みんな口を閉ざした。