10月の終わり。

救急当直も4週目。
週末の勤務も今日で終わる。

「桜子、夜食のカレーはチキンでいいの?」
結局、救急当直に付き合うこととなった紗花がきく。

「うん。チキンでいい。紗花は?」
「ポークカツ大盛り」
「はいはい。好きにして」
どうせ私のおごりだから。

明日鷹先生が仕組んだペナルティーの救急当直。
断わるチャンスもあったけれど、私も紗花も勤務に就くことにした。
当直をどうするかと聞かれた紗花は、
「悔しいから、救急の当直はします」と答えたらしい。
そして、
「夜食は桜子がおごりなさいよ」
と言った。
いかにも紗花らしい。

夜勤のスタッフが、いつものカレー屋へ夜食の注文をする。

救急には色々なジンクスがある。
出前を頼むと急患が来るとか、
「今日は暇だ」と口にすると患者が立て込むとか、
その他にも色々・・・
さあ、今夜はゆっくりカレーが食べられるといいな。



幸い、今日は患者数も少なく落ち着いてる。
来るのは、発熱の子供や薬の欲しい常連患者。

「センセー、薬が切れて、苦しーよー」
奥の診察室から呼ぶ声。
週に2度は顔を出す常連患者だ。

もー。
私は、診察室へ向かった。


診察室のベットで横になる患者は、30代後半の女性。
髪は金髪でボサボサ。
アルコールとたばこの臭いがする。

「ここは救急だから、薬は出せませんよ」
「はぁー?何言ってるの?あんたじゃ話にならない。川上先生はいないの?」
「川上先生が診ても同じです」
「いいから、違う先生呼びなさいよー。誰かー誰か来てー」
怒り、叫び出す患者。

以前だったらひるんでいただろうけれど、今はもう慣れた。

「1日分だけ処方を出しますから、明日必ず外来に受診してください。それが嫌なら警備を呼びます。どうしますか?」

しばらく私を睨んでいた患者。

これ以上言っても無駄と諦めたように、
「分かったから、薬ちょうだい」
納得して診察室を出て行った。

「帰った?」
処置室へ戻ると川上先生が声をかけた。
先ほどの女性患者は川上先生がお気に入りで、いつも先生を指名する。

「今日の分の薬だけ出して帰しました」
「そう。お疲れ様」
言いながら、川上先生がジーと私を見ている。

「何か?」
「いや、最初はどうなるかと思ったのに、ずいぶん成長したよね」

ええ?
恥ずかしくて顔が真っ赤になる。

「やめてください。先生」
「ごめんごめん、褒めてるから。それに、あの明日鷹を怒らせた初めての人だし」
そう言えば、川上先生は明日鷹先生の大学の同期って、

「あいつも人間だから機嫌の悪いときはあるけど、この間みたいに怒りを相手に向けることはなかった。いつも周りに気を遣ってしまう奴だから」

「反省してます」
素直に頭を下げた。

社会人として未熟で、自覚の足りない行動だったと反省している。

「そんな顔するな。怒ってるわけじゃないから。ただ、明日鷹を怒らせるなんて珍しい人もいるなと思ってね」

ハハハと、笑われた。