9月

研修医になって半年。
病院にも先生と呼ばれることにも慣れた。

ブー  ブブー
PHSが呼ぶ。

「はい、鈴木です」
『先生。午後から検査予定の患者さんが早めに見えたんですが・・・』

今は、正午12時。

「予定は1時半でしたよね?」
『はい。待ってもらいますけど・・・前処置も1時半スタートでいいですか?』

検査には明日鷹先生も一緒に入るから・・・

「今から着替えてもらって、点滴のルートがとれたらもう一度連絡ください」
『わかりました。先生、今からお昼ですか?』
「はい」
『じゃあ、ゆっくり準備しますから』
その間に昼食を取ってください。と付け加えた。


病院に併設されたバイキングレストラン。
大手チェーンだけに味も価格も庶民的だけど、色々な食材が食べられる事と待ち時間がないのが人気で、職員や外来患者さんでいつも賑わっている。

今日はパスタの気分かな?

ミートソースを選び、サラダバーへ。
トマト、コーン、レタス、コールスローサラダも。
あと・・・ポテトサラダ。
私は子供の頃から、ポテトサラダが大好き。

パスタと、サラダと、ポテトサラダがほぼ同じサイズの皿に入り、バランスの悪いランチができあがった。

かなりの広さのレストランでも人気は窓側の席で、中央はかなり空席がある。
誰か知り合いいないかな・・・

あっ。
明日鷹せんせ・・いが
女の人と食事中。

うわぁ、凄い美人。

気づかれないように、そっと方向転換したとき、

「あなた」
なぜか美女が声をかけてきた。

えっ。
私?

明日鷹先生とも目が合ってしまい、

「お疲れ様です」
ペコリと頭を下げる。

「ああ、お疲れ様」

「あなた、いつも明日鷹と一緒にいるでしょ?」
にっこり笑顔。

「僕が彼女の指導医だからね」
無表情の明日鷹先生。

「じゃあ、あなたは研修医?」
「はい」
ランチののったトレイを持ったまま返事をする。

すると、
「今からランチでしょ?良かったら一緒にどう?」

え?ええ?
チラッと明日鷹先生を見ると、困った顔してる。

「いいでしょ?」
美女は明日鷹先生に同意を求めた。

「君たちさえ良ければ・・・」
そう言うと食事を再開した。

私はすすめられて席に着いた。

すごく気まずい。

美女は楽しそうに話しかけてくれるのだけれど・・・
なかなか盛り上がらない。

大人な感じの綺麗な人。
さらさらストレートヘアーに大きな瞳。
化粧はナチュラル。
所作も美しい。
彩りよく皿に盛り付けられたサラダもバイキングとは思えない。
私の山盛りポテトサラダが、恥ずかしい。

「パスタとポテサラが同じ量って・・・」
明日鷹先生がおかしそうに突っ込んだ。
「好きなんです。放っとてください」

ああ、逃げ出したい。

その時、
ブー  ブブー
PHSが鳴った。

「すみません」
食事中の2人に断わって出る。

「はい、鈴木です」
『内視鏡室です。検査予定の患者さんのルートとれました』
「今から行きます。前処置の準備しておいてください」
PHSを切って、食べかけの食器をトレイに乗せる。

「予定は1時半でしょ?」
「少し早いですけど・・・準備しときますから」

ここから逃げ出したい私は立ち上がった。

しかし、
「いいから、食べてから行きなさい」
明日鷹先生に止められてしまった。

えー。
ええー。

結局、私はかき込むようにランチを食べ、明日鷹先生とともに検査室へ向う事となった。

食事を終え席を立った明日鷹先生に、
「明日鷹、話はまたね。近いうちに連絡するから」
美女が満面の笑顔で言い、

「ああ」
明日鷹先生が不機嫌そうに答えた。



「綺麗な人ですね?」
内視鏡室へ向かう途中の明日鷹先生の背中に話しかける。

しかし、
「・・・」
返事は帰って来ない。

しばし無言で、病院内を歩く。

「怒ってますか?」
あまりにもいつもと様子が違い、不安になって声をかける。

「・・・」

「私、何かしましたか?」
「桜子先生には関係ないよ」
私を振り返り、穏やかな口調。
「はあ」

それ以上の会話はなく、私と明日鷹先生は午後の検査に入ることとなった。