十二月三十一日。
 世間は大晦日で新年を迎える為街ですれ違う人々はいつもより忙しなかった。
 僕は会社へ向かい業務に打ち込んでいた。
 それぞれのデスクが怒涛の如く落ち着かなかった。
 激しくパソコン画面に文字が打たれ、コピー機には長蛇の列、電話は延々となり続けており対応が間に合っていなかった。
 早くも今年は過ぎ去りそうになり年末に入る。
 僕の所属するIT業務部は社内のサービス業みたいなものでこの時期は毎回無理な依頼が殺到する。
 年内に直せ、総仕上げの時期にソフトが動かないどうしてくれる、来年からはもっと使用をこうしろああしろ。
 要はクレームの盛んな時期だ。
 依頼が増える度やることリストをメモにまとめていたが書き留める暇もなくなっていった。
 もう多くの記憶に埋もれたものを掘り返して見つけたものを片っ端から処理していく記憶便りの仕事をしていた。
 そのやり方は仕事が乱雑になり抜けが発生しやすい。
 しかし、そうせざるをえない環境だった。
 時間の流れを感じない、頭も段々ボーとしてくる。
 久しぶりに掛け時計に目を向けると気づけばもうこんな時間かと驚く。
 仕事はまだ残っており、年明けは職場で迎えそうだ。
 職場で迎える年も何度かあったが、決してそれも悪いものではなかった。
 一日の業務を乗り越え、同僚と食べるインスタントの年越しそば、机に並べられた缶ビール。
 津藤さんとその同類たちがネクタイを頭に巻いて缶ビールをマイク代わりに歌い出す。
 数時間後には地獄絵図みたいになっているだろうな。
 そうして午後二十二時を迎えそうになる頃には仕事は大方とは言えなくても終わりの目途はつきそうになっていた。
 これなら無事来年に回せそうだ。
 デスクチェアを後ろに押し倒し背伸びをする。
 ここまでやり切った、そんな達成感で満たされる。

「お疲れビール」

 僕の額に冷たいものが置かれる。
 唐突な不意打ちに僕は慌てて飛び起きる。
 犯人は分かっている、やっぱり津藤さんだった。
 
「まだ早いでしょう」

「なーに。ちょっとのフライングくらいけちけちすんな。年越し同時に飲むころにはぬるくなってるよ」

「冷蔵庫入れたらいいじゃないですか」

 そう言いながらも僕は缶ビールを受け取り、中身を空けた。
 プシュッと気持ちのいい音が響く。
 その音に反応して周りも集まってきた。
 数十人集まったおっさんズは缶ビールをそれぞれ開け、その後はみんな飲みたくてうずうずしていた。
 
「めんどくせぇ挨拶は無しだ。今年もお疲れでしたぁ!乾杯!!」

 津藤さんは缶ビールを持った手を勢いよく突き上げると残りの衆も真似して突き上げた。
 少量のビールがフロアに落ちて染みていく。
 上の人に見つかったら何人飛ばされるんだろうな。
 後先考えない津藤グループはぐいぐいお酒を口に流し込んでいく。
 僕は少量含みすぐに机に缶を置いた。
 一同拍手をして宴会が開幕した。
 僕は何となく自分のカバンに手を入れスマホを取り出した。
 思えば今日初めて触ったかもしれない。
 画面を開けると恐ろしい数の着信履歴が表示されていた。
 見覚えのない番号、一体何事だ。
 僕は集団から離れ折り返し連絡を入れてみる。
 少しコールするとすぐに相手は出てくれた。

「はい、影沼です」

「・・・逸木です。すみません、何度もご連絡頂いたみたいで」

「あぁ・・・逸木様。ご連絡ありがとうございます」

 安堵した声を影沼は漏らす。
 激しい息遣いと大げさに感じるくらいの接待は異様に感じた。

「何か、あったんですか?」

 影沼は沈黙し、何かを考えているようだ。
 その後ポツポツと話し始めた。

「・・・ユイ様は、そちらにいらっしゃいますか?」

「・・・それはどういう?」

「その様子だと、そちらにはいないのですね」

「えぇ、こちらにいるはずがないじゃないですか。だってあなた達の研究所にユイを預けたんですから」

 不穏な空気が流れる。
 影沼の言動、雰囲気、それらを照らし合わせて僕はある程度察してしまう。

「ユイ様が、いなくなりました」

 激しい怒りが込み上げてくる。
 こいつは、無事に返しますと言いながら、ふざけたことを電話してきやがって・・・!
 
「大変申し訳ありません。ご自宅などにはおりませんでしたか?何か心当たりのある場所などはありませんか?」

「確認していない、今から探してみる。あなたのことはもう、いえ、切りますね」

 僕は電話を無理やり切った。
 これ以上話しても時間の無駄だし、怒りをぶつけてもなんの解決にも至らない。
 早く、ユイを探さなきゃ。
 この寒い中どこか一人で佇んでいるのかもしれない。
 駅前のベンチで雨に濡れていたユイを思い出す。
 もう、あんな寂しい思いはさせない。
 絶対に見つけ出す。