ハナミズキ

 君と出会った春。
 桜と一緒に咲いていた知らない名前の花を指差し、
「ハナミズキが咲いてる」
 君は笑ってた。
「へぇ、歌にまでなってるのに、実際見るの初めてかも」
「…なんて、ユヅキくん、花に興味なさそうだもんね」
「そんなことはないよ」
 なんて否定しつつ、実際はそんなことはあって。
「お母さんがね、大好きで」
 そんな笑顔の中に一瞬の曇り顔。
 後々、彼女のお母さんは去年亡くなったのだと知った。

 それから僕たちはつきあい始め、何年目かの交際記念日。
 僕も彼女もそういう記念日的なものは苦手だったけれど、
プロポーズはちゃんと決めていることがあった。

「僕と結婚してください」
 僕は花束ではなく、一枚の栞と指輪を彼女に差し出した。
「これは?」
「ずっとプロポーズする時はその人の好きな花束をプレゼントしたかったんだけど、
さすがにハナミズキは無理だから、だから栞にしてみたんだ」
「もしかして、ユヅキくんお手製?」
 お手製の言葉になんだか恥ずかしくなって、僕はただただ無言で頷いた。
「そういうところ、意外とロマンチックだよね」
「意外とって失礼だろ」
「だって本当のことでしょ」
 からかう彼女を横目に、僕は言葉を続けた。
「どうか僕のこの想いを受け取ってください」
 彼女は僕の目を見つめ返し、
「はい」
 頷いてくれた。

 ハナミズキの花言葉は、『私の想いを受け取ってください』

 そして僕は『ずっと』あなたを幸せにしていきます、
と僕自身に誓った。
 瞬間、一筋の風が花弁を舞い散らせ、
僕たちを祝福しているようだった。