「勿忘草」

「草って名前なのに、花なんておかしいよね。名前だけはよく聞くのに、実際はあんまり見たことなくない?」
 君はそう言って、植物図鑑を眺めてる。 
「それだけ名前が純粋なんじゃない?」
 僕は言う。
「純粋か…私を忘れないで、なんて自己主張激しいもんね」
「それだけはっきり言えるなんて、僕はすごいと思うけど。
もう一つの花言葉はあんまり有名じゃないしね」
「へぇ、もう一つあるんだ…」
 うん、あるんだよ。
 でも君はあんまり興味なさそうにするから、その話題はそこで終わってしまった。

 もう一つの花言葉は、真実の愛。
 忘れないで、と主張しすぎて、誰もその愛に見向きもしてくれなくなったのか。
 そんな君との何気ない会話も、きっと君は忘れてる。
 僕は忘れようとも忘れられないでいる。
 君と過ごした日々は楽しかったよ。
 学生時代の思い出を振り返れば、嫌でも君が出てくる。
 友達以上、ではなかった。
 ただの友達。
 だから、
「彼氏ができたの」
 そうはにかんだ笑顔で僕に報告してきた君を、僕は直視できなかった。
 総て前に進まなかった僕が悪いのに。
「おめでと」
 ふり絞った声は震えていただろうか。
 本当は言いたくなかった。

「君を忘れさせてください」
 僕は忘れないで、と願う勿忘草と正反対の想いを願う。
「僕を忘れてください」
 なんて、惨めで情けない男の願いなんて叶うわけもなく、僕はきっといつまでも君を思い続けるだろう。