「はぁ……」

 俺は机に突っ伏して溜め息を吐いた。
 というのも俺は今、大きな悩みに直面しているからだ。
 その悩みというのは――シナリオが思い付かないのだ。

 そう、俺は人生で初めて、TRPGのGMをすることになったのだ!



 ――経緯は幾らか過去にさかのぼる。

「俺さ、一回GMやってみたいんだよね」

 それはある日のセッションの帰り道、トモコちゃんと並んで歩いている時のこと。
 俺の呟きに、トモコちゃんが目を丸くしながらこっちを向いた。

「GM。何の?」
「モノミュ。モノトーンミュージアム。まだ遊んだことないシステムだからさ……って、未プレイなのにGMしたいなんておこがましいかなぁ? ははは……」
「そんなこと、ない」

 笑って濁した俺に対して、トモコちゃんは真面目な声音で凛と言った。 

「PLしてからじゃないと、そのシステムのGMしちゃダメ……なんてルール、ないよ。だってもしそうだったらさ、新発売されたTRPGのGMは誰がやるの? って話になっちゃうし」
「あ……それもそっか」
「確かにGMって、敷居が高いイメージあるよね。分かるよ。……私達の面子は特にGMが上手な人ばっかりだから、『あんな風にできるかな、楽しんでもらえるかな』って、なおさら委縮しちゃうよね」
「うん……」

 図星である。
 GMって大変そうだ。そのシステムのルールと世界観を把握しないといけないし、皆のキャラクターシートを確認して、戦闘面での敵データ調整をしないとだし、PLの宣言をその場その場で処理していかなきゃいけないし、セッションの為のシナリオを用意して、ちゃんと読み込んで把握して、筋書通りにセッションを進めていかないといけないし……。
 そう、GMって、大変そうだ。

「やることが多そうで、それを全部ちゃんと捌けるのかなぁって。ルールミスとかもやらかしそうだし……、うん。ずばりトモコちゃんが言った通り、敷居が高いイメージある」
「まあね。……それがTRPG界隈を見渡して、GM比率が少ない原因のひとつじゃないかなぁって私は思うよ」
「TRPG界隈って、GM少ないんだ?」
「そうだね……実際、PLするだけよりやることが多いし。そういうのでどうしても、避けられがちだね」

 だけどね、とトモコちゃんは言う。

「これは私の考えだけど。ルルブって、GMセクションもあるじゃない? そこまで読んで、GMもPLもやってこそ、そのシステムを遊びつくせると思うんだ。……確かに、GMはPLよりやることが多いのは事実。だけど本当にそのシステムが好きなんだったら、遊び方をコンプリートした方が幸せじゃない? 折角ルルブが手元にあるのに、もったいない」
「そう言われてみれば……」
「それにね、『GMたるものミスがあっちゃいけない』……って気負い過ぎなくっていいと思うんだ。ルルブって一冊何ページあると思う? それを全部カンペキに丸暗記するなんて、無理だよ。人間なんだもん。誰だってミスするんだし、もしルールミスがあっても皆で教え合えばいいんだし」
「そっか……俺、GMってなんか、神様みたいに絶対正義でスゴイモノって勝手に思い込んでたかも」
「GMはね、いい意味で『すごくない』よ。PLと平等だし、人間だし、味方だし、一緒にTRPGを遊ぶ仲間だし。変にエライヒトって身構える必要はないよ」

 当たり前のことなのに、なんだか目からウロコだった。俺は赤べこのように何度も頷いて感心していた。
 トモコちゃんが言葉を続ける。

「GMをするとね、PLの時には見えてこなかったものが見えてくるし、敵の構築とかデータを知ることで、こういうコンボもあるのか、って発見もあるし。ルールに世界観に、格段にそのシステムへの理解が深まるよ。もっともっとそのシステムのいろんな面が見えてくる、好きになれる」
「そう言われると、がぜんGMがしたくなってきたかも。うん、折角ルルブが手元にあるんだから、遊びつくさないと損だな!」
「でしょ?」

 彼女はニコッと俺に笑みを向けた。
 そんな彼女に、俺はひとつ問いを投げかける。

「あのさ、トモコちゃんはGMしたことあるの?」
「あるよ。まだテツオくん相手にはしたことがなかったね、そういえば。そろそろGMまたやろっと。ダブクロ辺りで」
「流石だなぁ……カナエちゃんは?」
「カナエちゃんも何回かあるね。ウタカゼっていうほのぼのしたTRPGのGMをしてくれたよ」
「皆、GM経験者なんだ……」
「うん。……あ、だからってテツオくんがGMするのはダメって理由にはならないからね? 誰だって最初は初めてなんだし。むしろ、気心の知れた面子相手に初めてのGMする方が安心だと思う」
「確かに。うん、俺、GMがんばる! やってみたい!」
「いいと思う。テツオくんがどんな風にGMするのか、私、すごく興味あるよ。楽しみ」

 そう言うトモコちゃんは、本当にワクワクとした様子に表情を綻ばせていた。PLにこんなに楽しみだという思いを伝えられると、嬉しいものだ。とってもやる気が湧いてくる。

「何か困ったことがあったら言ってね、テツオくん。手伝えることならなんでもするよ」
「ありがと、トモコちゃん。よーし、がんばるぞーっ」

 俺はそう決意した、のだった。