「畜生、引きこもりの弊害がここで出るとは……」
「ははは……」

 何やらぶつぶつと呟いている香宮さんに、僕は空笑いを零した。
 取り敢えず、悪態を吐けるぐらいには回復したと受け取っておこう。

「心配かけてごめんね。もう大丈夫だよ」
「本当に?」
「本当だよ。まあ、今から遊園地の方に行って遊び回る体力なんてないけど」
「遊園地行きたかった?」
「ううん。遊園地よりも植物園に引きこもっていたい」
「ははは……」

 そういうところだぞ香宮さん。

 ずっと引きこもっているのは良くないよと注意したいところだが、残念ながら僕も似たようなものなので何も言えない。一応、店の手伝いで商品を運んだり掃除をしたりしてそれ相応に動いてはいるものの、運動部に所属している人よりは確実にその運動量は少ないだろう。

 まあ、今の時期は家に引きこもっている方がある意味正解なのかもしれない。じゃないと、こうなってしまうから。今更後悔しても遅いけれど。
「ごめん、香宮さん」
「何で高瀬くんが謝るの?」
「だって、香宮さんが体調悪いことに気づけなかったし……」
「高瀬くんが謝ることじゃないよ。どう考えてもわたしが悪い。自分の体調管理もできていない、引きこもりのわたしが悪いの」

 まあ、引きこもりをやめる気は更々ないけどね。

 朗らかに香宮さんが笑う。

「高瀬くんって、本当に面倒見が良いよね。お店行こうとしていた時に道案内してくれたし、テスト勉強も付き合ってくれたし、こうして色々と面倒見てくれているし」

「面倒見が良いというか、ほっとけないというか……」
「ほんと、昔と変わらず優しい人だよ」
「優しい訳じゃないよ……って、え?」

 昔と、変わらず……?

 思わず首を傾げた僕に、香宮さんはがっくりと肩を落とす。それはそれは深い溜息まで吐かれてしまったが、それがどうしてか僕にはさっぱりとわからなかった。

「やっぱり、覚えてないよね……」
「え、何?どういうこと?」
「そうだよね。あの時しか話したことなかったもんね……」
「は、え?」

 自分に言い聞かせるように「仕方がない、仕方がないよ」と唱える香宮さんの言葉に僕は首を傾げるばかりだ。そんな僕に少しいじけつつも香宮さんが説明する。

「実はわたし、数年前に高瀬くんとお話をして、絵を貰って、更には一緒に絵を描いたことがあるのですよ」
「……えええっ!」

 思わず叫べば周りの人の視線が僕に集まった。五月蠅くしてすみません。

 でも、今はそれどころじゃなくて!

「は、え、いつ?いつの時の話?」
「小学生の時だね」
「小学生の時……」

 小学生の時の交友関係を思い出そうとするが、ダメだ、全然思い出せない……。当時、比較的仲が良かった人の顔が朧気に浮かぶだけで、クラスメイトの顔すら思い出せない。
 僕は昔から他人と広く浅く付き合うタイプの人間だった。その弊害が、今ここで出てくるとは……。
 頭を抱えて唸る僕とは裏腹に、香宮さんは口元を緩ませた。

「ふふっ、悩んでる悩んでる」
「……あの、香宮さん。もしかして楽しんでる?」
「ちょっとだけ」

 クスクスと笑う香宮さんを恨めしげに見遣る。それでも、彼女は笑っているだけでなかなか教えてはくれない。

 人の気も知らないで!

 心の中で叫んだけれど、どう考えても思い出せない自分が悪いので僕はすぐに白旗を掲げた。

「降参です。教えてください」
「よろしい。それならば教えてあげましょう」

 悪戯っぽい笑みを浮かべて香宮さんは話し始めた。