植物園の一角にある小さな花畑。
 そこではたくさんの向日葵が一輪一輪美しい花を咲かせていた。

 見慣れた黄色だけでなく、白色や赤茶色などの花。青々と茂る葉。そして、その花畑の向こう側に入道雲が浮かぶ青空があって。
 まるで一枚の絵画のような景色に、「おおー」と二人して感嘆の声を上げる。

「いいねいいね!これぞまさに夏って風景だね!」
「そうだね」

 興奮気味の香宮さんの隣で僕の心も弾んでいた。
 夏だからこそ見られるこの景色を描きたいと心が叫んでいる。

「わたし、植物の中でも向日葵が一番好きなんだよね。向日葵を見ていると、何だか元気がもらえる気がするんだ」

 たくさんの向日葵を眺めつつ、香宮さんが微笑む。夏の日差しに負けないぐらいに眩しくて、僕は目を細めた。

「でも残念。青い向日葵はないか……」
「いやいや、流石にないでしょ」
「もしかしたら一本ぐらい……」
「ないでしょ」
「むー」

 膨れっ面になった香宮さんに苦笑した。
 いつだったか、香宮さんは鳴の絵を見て「青い向日葵か……実際に見てみたいなぁ……」と呟いていたことがあった。

 たくさんの黄色い向日葵の中に、一本だけ青色の向日葵が描かれた絵。
 それに焦がれたのだろうが、勿論青い向日葵なんてものはなくて。

 と、ここで僕はふと思った。

 いつ、打ち明けよう……。

 ここへ来た理由は向日葵畑を楽しむというのもある。けれど、それだけではなくて、僕が鳴であることを香宮さんに打ち明けるために来たのだ。

 今、言うべきか?いや、もう少し後にしよう。

 なんて、そんなことを考えているうちに時間はどんどん過ぎて行く。

「全く、ヘタレだねぇ」

 と、脳内で先輩が呆れたように悪態を吐いた。この場に先輩がいたら確実にそう言われている気がする……え、いない、よな?
 思わずきょろきょろと辺りを確認するが勿論先輩がいるはずもなく。僕はほっと胸を撫で下ろした。

「高瀬くん、どうかした?」
「いや……流石にこの日差しの下でスケッチはできないなって思って」
「あー、確かに」

 咄嗟に思いついたことを言ってみたのだが、よくよく考えてみればまさにその通りだった。
 向日葵畑に日陰はないし、こんな炎天下でゆっくりと絵を描いてなんていられない。紙に光が当たって眩しいし、何より体調を崩しかねない。

「うーん、そこは盲点だったなー。普段引きこもって描いているから気がつかなかったよ」

 香宮さんに僕は力強く相槌を打つ。ほんとそれな。

「仕方がない。写真を撮ってそれを資料にしよう。花畑全体は、あそこの休憩所から見えるだろうし、そこに行って描こうか」
「了解しました!」

 僕の提案に香宮さんはピシリと敬礼する。それがあまりにも力の入ったものだったから、僕は少しだけ笑ってしまった。