夏休み。その言葉を聞くだけでテンションが上がってしまうのは僕だけじゃないだろう。
 だが、休みとは名ばかりでその中身は補習に部活に課題のオンパレード。何だかんだで普通に授業がある日の方が楽なのでは……と思ってしまう。

 午前に補習。午後に部活。そして、夜は待ちに待った七夕祭り。
 今頃七夕祭りを楽しんでいるであろう友人たちはさぞかしはっちゃけていることだろう。
 だが悲しきかな、その中に女子は一人もいない。花より団子な野郎ばかりで構成された何とも残念なメンバーである。
 事実、焼きそばやらフランクフルトやらかき氷やら、屋台で買った食べ物の写真ばかりがさっきから送られてきている。『補導されるなよ』と注意すれば、『お前はおかんかよ!』と返ってきた。

「誰がおかんだ誰が」

 クーラーの効いた自室で僕は一人突っ込んだ。

 まあ、友人たちが夏休みを満喫しているようで何よりである。
 その後も軽い遣り取りをして、区切りがついたところでゆっくりとスマホを傍らに置く。

「さてと……」

 タブレットへと視線を向ければ、そこに映し出されている線画が目に入った。
 浴衣を着た男女。金魚すくいや水風船、りんご飴、わたあめ、かき氷などの様々な屋台。そして、たくさんの吹流し飾り。
 ここ最近取り組んでいて、漸く完成した線画だ。自分で描いておきながら、少々詰め込み過ぎたかなと苦笑いを零す。

「これに色を付けていくのか……ははっ、大変だなぁ」

 そう呟きつつも、それが楽しくて仕方がないのだから我ながら始末に負えない。

 夏休みの過ごし方は人それぞれ。友人たちのようにイベントに参加して夏を満喫している者もいれば、僕のように夏だからこその絵を描いて夏を満喫している者もいる。
 微かに聞こえてくる祭囃子の音や人々の声を聞きながら、僕は画面の中に描かれつつある『七夕祭り』と対面する。
 タッチペンを手に取って、「さあ、塗るぞ!」と意気込んだその時、再度スマホが鳴った。

「……おいおい何だよ」

 思わず不機嫌な声を零してしまった。
 友人たちがまた何か送ってきたのだろうか。絵を描くための資料が増えるのはありがたいことだが、思い切り出鼻を挫かれた気分だ。
 悪態を吐きつつ、握っていたタッチペンを置く。代わりにスマホを取れば、メールが一通届いていた。
 
でもそれは友人たちからではなくて香宮さんからだった。
 差出人の名前を見て僕の機嫌がころりと直る。チョロいな、と自覚はしている。自覚はしているのだけど、律しようとして律せられるものではないので致し方ない。