「昨日はどっちも欠席で、今日は一緒に遅刻か。お前らそんな仲良かったか?」

1限目の授業中に登校してきた私たちを見て、数学教師兼担任の先生が、黒板に数式を書いていた手を止めて怪訝そうな顔をこちらに向けた。

クラスメートも扉の方を見て、私たちの姿をその目に移した。

好奇の眼差しが多くいる中、ただ一人、翔琉だけは不機嫌そうな顔をしていた。

その顔に既視感を覚えていると、後ろに立っていた氏原君が私の肩に手を置き、耳元に顔を寄せてきた。

少しは穏やかになっていた心臓がドクンと鳴り、クラスメートの前で赤面してしまった。

あんなことがあったせいで、しかも氏原君によって揺さぶられている気持ちのせいで、私は分かりやすく反応してしまっていた。

「屋上にいるから」

変わらず平然としている氏原君は、耳元で囁くように言って私の背中を軽く押した。

その反動で否応なしに教室に足を踏み入れてしまった私。

振り返った時には、もう既に氏原君の姿はなくて。

肩と背中に、氏原君に触れられた感覚が残っていた。

触れられてはいない耳では、彼の声と息遣いを間近で聞き、それを反芻して更に赤面してしまった。

私の心境を知っている上で故意にやったんじゃないか、と氏原君を疑ってしまいそうになる。

私は顔を隠すようにして俯きながら自分の席に着き、自分の存在を消すようにして小さくなった。

「氏原は無自覚なところがあるからな、なかなか手強い奴だけど頑張れよ」

「ちが…! そんなんじゃないんで…!」

氏原君に対する私の反応を見て何かを悟ったような担任の激励の言葉に、私はガタッと椅子から立ち上がって異論を唱えた。

でもその行動は逆効果だったようで、周りのクラスメートからも先生と同じような激励を飛ばされてしまった。

完全に誤解されてしまい、私は泣きそうになりながら俯いて、机の上に置いた自分の手を見つめた。

激怒するくらい否定すればいいのにそうできないのは、少なからず自覚があって。

でも認めたくなくて、気づかないふりをして。

油断したらすぐに溢れてしまいそうになるその気持ちを、心の奥底に無理やり押し込んで蓋をした。

立ったまま涙を堪える私を知ってか知らずか、先生は私に座るよう促し、中断していた授業を再開した。

力なく席に座った私は、教科書もノートも出さずに、素直になれない自分の感情と葛藤していた。

ただ、助けてもらっただけなのに。

それだけなのに、どうしてこんなに揺れ動いてしまうのだろう。

寡黙でクールで無表情で怖いと思っていた氏原君の優しさを知ってしまったからだろうか。

その優しさが、自分にだけ与えられていると勘違いしているからだろうか。

公園でのことも、私はきっと勘違いをしていて。

言わば、全てが勘違いなんだ。

胸がギュッと締めつけられるようなこの感覚も、勘違いなんだ。