七夕に生まれた私の名前は如月菜那。

今日で満16歳。

改定前の現時点では結婚出来る年齢だ。

とは言え、私に結婚願望はない。

パジャマを脱いだ際、鏡に映る、手術痕。

命を繋ぎ止めた傷痕は、身内から見れば美しいものでも、他人は目を背けたくなるに違いない。


「行ってきます」


有名なデザイナーによる制服を身に付け、指定の鞄を手にし、ローファーを履く。


「寄り道しないで帰って来るんだぞ」


白髪が目立ち始めた父の言葉に笑顔で頷き、玄関の扉を開け、空を見上げる。

今にも雨が降り出しそうな曇天だ。


「いてて」


手術から4年が経過したのに、湿度が高く、気圧の低くなる日は傷口が痛む。

腰の辺りに触れ、また空を見上げる。


「今年は会えたのかな?両想いなのに年に一度しか会えないなんて可愛そう」


なんて、織姫と彦星に想いを馳せてみたものの、恋愛の「れ」の字も知らない私に同情される方が可愛そうだ。

同じ境遇、医療関係者、その家族、などなど。

事情を丸ごと受け止め、傷ごと愛してくれる人は探せばいるかもしれない。

でも、長生き出来るか分からない私を嫁に欲しいと願い、迎え入れてくれる親を持つ人は少ないだろう。

愛し、愛された後、結ばれない。

不幸な運命をたどり、互いが傷付くくらいなら、恋人との甘い時間や結婚を望まなければいい。

恋愛の「れ」の字は知らなくても生きていける。

そう思うようにして恋愛は諦めた。

願い事を叶えてもらうために。


「織姫様、彦星様」


偉そうに、同情してすみません。

ただ今年も七夕の願い事だけは勝手ながらさせてください。


「長生き出来るよう頑張りますから、生き死にの順番を守らせてください」


"父を看取らせて"


それだけ。

いや、欲を言えばもうひとつ。

楽しく過ごせたら。

もうそれで十分。


「…って、いけない。急がなきゃ」


天を見上げてのんびり願い事をしている時間はなかった。

駆け足で駅まで走り、到着した電車に飛び乗った。