殺したくない人を殺さなければならない時の心情は、心が悲鳴をあげそうなくらい苦しくて痛くて悲しかった。

その時の心情をスマホに事細かくメモし、私は次の作業に取り掛かった。目から溢れていたあの塩っぱい水はもう乾いていた。

私には憎い人がいる。それが誰かなんてもう分かりきっていた。

親友の鮮血で汚れたナイフを綺麗に洗い流し、私は学校へ向かった。無論、私の通っている学校だ。

今日は休みのため、ここに来ている生徒や職員は少なかった。

グラウンドでは運動部の声が響き渡り、校舎内からは吹奏楽部の演奏がこもって聞こえた。

私はポケットに忍ばせたナイフに触れながら校舎内に入り、階段を一段一段確かめるようにして上った。もう最後かもしれないから。

この経験が終われば、私はこの地から姿を消すつもりだ。

親友を殺したのが私だとバレてしまうのもきっと時間の問題で、次の件にもそれは大きく影響するだろう。

階段を上るにつれて、吹奏楽部の演奏の音が鮮明に聞こえ始める。人気歌手の応援歌だ。

徐々に憎い人を殺すその瞬間が近づいていて、私の緊張は高まった。心臓の鼓動が速くなる。

ここまでの経験はさっきと同じだ。何も変わらない。

だけど決定的に違うのは、その憎き人を殺すのをとても楽しみに思っているということ。

大好きな歌手のライブに行く時にみたいに、私の気持ちはワクワクドキドキして、大きな高揚感を感じた。

吹奏楽部の演奏している曲が変わった。時を得て再び一斉を風靡した男性グループの曲だ。

それを割と近くで聞きながら、私は扉を開け放った。

すると、音が少し小さくなったような気がした。

扉を越えてパタンとそれを閉めると、音は更に小さくなり、終いには私の心には届かなくなった。もう引き返せない。

来た。遂にこの時が来た。私が待ちわびていた経験をするこの時が。

私はずっと触れていたナイフを取り出し、刃を青い空へと掲げた。

どこを見上げても清々しいほどの青空。雲ひとつない青空。親友の血液とは逆の色のそれ。

風が私の髪を乱し、視界を遮った。ここは屋上だ。

私の憎い人はすぐ近くにいる。ほらこんなにも近い。

ドクドクドクドクドク。鼓動がどんどん速くなる。

興奮して息が荒くなり、頭に血が上ったみたいに視界がぼんやりとした。夢か現実か分からないような不思議な感覚。

血が沸騰しているんじゃないかと疑ってしまうほど、体の内側が尋常じゃないほど熱かった。体内に直接マグマを流し込んだかのように。

感情に突き動かされるがまま、じわりじわりと其奴をフェンスに追い込み、親友の時と同じように大きくナイフを振り被った。

憎い人を殺せる。やっとの思いで殺せる。

殺したい人を感情の赴くままに殺す時の心情は、とてつもない高揚感を感じて、とてつもない興奮を感じて。そして。

絵の具の青一色で塗りたくったような青空に、赤い鮮血が飛び散った。青と赤のコントラストが美しい。

其奴は真っ赤な鮮血を流しながら、最後の力を振り絞ってフェンスを乗り越えた。

血がべっとりとついたナイフからは、ポタポタと真っ赤なそれが垂れ、屋上を汚した。

私の目からは何も出ず、代わりに笑みが零れた。快哉な笑み。

其奴はそこから身を投げ出した。

ナイフが手から離れ、勢いよく地面に叩きつけられる。

地面が、其奴が、真っ赤に染まった。

私はとてつもない達成感を感じた。