1ヶ月間の病院実習では、外来受付でカルテの検索をすることがほとんどだったけれど、たまに救急搬送の対応もあった。

 高速道路を運転中にガードレールにぶつかったご老人が救急車で運ばれてきた時は、ご家族に連絡をするために、身元の確認をしに救急搬送口に連れて行ってもらった。
 その患者さんは外傷はなくて、眠っているだけのようだったけれど。

「こりゃダメだね~。内蔵グニャグニャ。タコさんみたい」

 看護師さんが、お腹を押しながら言ったそんな言葉に衝撃を受けた。

 ドラマみたいに医師や看護師がバタバタ走ってきて、「すぐオペだ!」となると思ったのに。
 もう処置の施し用がないのか、冷静第一なのか、そこではなんの処置もなくて唖然としてしまった。

 もし、運ばれてきた人が自分の旦那さんや子供だったら、もっと必死になるんだろうな……。
 もう無理だってわかってても、すぐにオペ室に運んで、どうにかしてください!ってなるんじゃないのかな……。

 そんな釈然としない出来事もあって、理想と現実は違うんだと感じたり。

 命の儚さを知り、消えゆく命へのある種の『慣れ』に、人知れず恐怖した。

 私はこの釈然としない気持ちを、いつまでも忘れないようにしようと思った。


 それでも、職員はみんな優しくて、とても有意義な実習だった。

 たったひとつ。
 弟さえいなければ……。