君が好きだった。
 窓際の一番後ろの席。そこに君は座っていて、クロッキー帳を広げて鉛筆を握り、一人黙々と絵を描いている。

 柔らかな春風がカーテンを揺らすと、君の黒髪も追いかけるように揺れる。

 近づきたいけど、近づけない。そんな雰囲気を纏っていて、勇気が出ない私はなかなか声をかけられなかった。声をかけた後の反応を想像して、怖気付いて躊躇してしまう。

 君は人と話すよりも一人でいることが多い男の子。
 ネクタイは上までしめていて、ワイシャツの第一ボタンもきちんと留めてある。まるで見本のような制服の着こなし。

 クラスのみんなでの遊びや打ち上げは必ずといっていいほど不参加。口にチャックでもついているんじゃないかって疑うくらい友達と談笑しているところを見たことがない。授業中だって、先生に当てられなければ発言もしない。


 目にかかりそうなくらい長めの前髪の隙間から見える瞳がいつも向き合っているのは、人ではなくて真っ白な紙と黒い鉛筆。

 愛想笑いをしない。無理に人の会話に合わせない。人の顔色をうかがわない。



 全部私とは違うものを持った彼。

 対して私は何回も折った制服のスカートに、だらしなく緩めたネクタイ。
 ワイシャツだって第二ボタンまで開けていて、髪の毛も人工的に明るく染めてしまっている。

 友達の恋愛話に笑って、昨日のバラエティ番組の話をして笑って、目がチカチカしそうなくらい情報が集められた雑誌の特集を見て笑いあう。

 取り残されないように目まぐるしく変化していく女子高生の話題に時々息が詰まりそうになりながらついていく。

 一人は怖くて、誰かと一緒にいることに安心していた。
 小さい頃はなんでもできるような気がしていたのに、いつの間に私はこんなに脆くなってしまったのだろう。

 何もかもが中途半端で、興味を持ってもなかなか継続ができない。
 描いた夢を途中で放り出して、適当なものに埋もれながら過ごしていた。いつか自分に合った夢中になれることに出会える。そんな希望を抱きながら、続ける努力をしなかった。


 そんな私だから、君に惹かれたのかもしれない。