小神は自分自身の価値観の偏狭さに気づいてしまったのだと語った。

 その言葉を聞いてわたしはやはりそうだったか、と合点する。

 普段の小神の発言はなに一つとってもそつがなく、知的なものばかりだ。

 それでたまにわたしはカチンと来てしまうこともある。

 けれども小神はあまりにも自己の主張を絶対視しすぎてしまっていたのではないだろうか。

 そして悲しむべくは――そのことに気づかず十八年近く彼は生きてきたのだという。

 彼は松本くんに鋭くも突き付けられたあの言葉――「金持ちだけが口にすることを許されたきれいごと」――によって、自己の価値観がただ育った環境に裏打ちされたものでしかないことに気づかされた。

 自分の思想や信念、今回のように親切心から施した助言は、必ずしもこの国中の誰にでも通用するものではない。

 そのことに初めて気づかされたのだという。

 その時小神が受けたであろう打撃は決して小さいものではないはずだ、とわたしは思った。

 これほどプライドの高い(に違いない)男が初めて味わう自分の価値観の狭さという屈辱。

 その精神的打撃によって、小神はすっかり顔を見せなくなってしまったに違いない。

 小神は直接的にはその部分を明らかにはしなかったけれど、口調から察せられた。

「――先輩って、案外脆いんですね」

 語り終え、黙り込む小神にわたしは開口一番そう告げた。