ところが今、わたしが今耳にしている小神の声帯の震えは、普段のそれとは明らかに異質だった。
 古い、暗い記憶を蔵の奥深くから無理に引き摺りだしてきたかのような――。

 わたしは思わず生唾を呑み下していた。

「私のその行為は、彼女個人のレベルではなく、彼女の家庭や親戚、当時の担任教諭にまで接触の及ぶものでした。
 そして彼女を中心とした人間関係のネットワークに介入した分だけ、結果としては彼女を疲弊させ、傷つけることとなったのです。

 その後の彼女と私の関係についてはここで詳らかにお話しするまでもないでしょう。
 その程度のことは星野さんにも察しがつくと思います」

 最後にややわたしに対する挑戦的な(遠まわしに言えば、のことだが)一言を残して、小神は一息ついた。

 グラスの水を一気に飲み干し、食べかけのまましばらく放置されていたハンバーグを、再び流麗な手つきで口に運んだ。