「彼女は憤りました、もちろん。
 しかし私は彼女の怒りを買ったことなど気にも留めませんでした。
 昔から私は人から好かれることよりは嫌われることの方が圧倒的に多かったです。
 今さら彼女から嫌われようとも、私は痛くもかゆくもありません――もちろん、それは辛いことではありますが。

 しかし私が一番辛かったのは、彼女が苦しんでいることを知りながら傍観者として彼女を放っておくことにほかなりませんでした。
 見て見ぬ振りなど、到底できなかったのです」

 小神の表情は普段の無表情のそれとは明らかに違っていた。

 眉と眉との間にしわが刻みこまれ、視線も、どちらかというと普段は話す相手――すなわちわたしのことなのだが――の目をしっかり見据えることが多いのに、今はうつむきがちだった。目には暗い翳が落ちている。

 その表情だけで、小神がその女性のことを真剣に考え、助けようとしていたことが分かる。

……別に、妬いてなどいない。でもちょっと複雑な気持ちにならないことは、ない。

 うわー! なんだ! このアンビバレントな気持ちは!!

 わたしは心のもやもやを誤魔化すべく、味噌煮をぱくりと口に放り込んだ。家庭の味とは違う、外食独特のしょっぱさが口いっぱいに広がった。

 そんなわたしの様子は、普段の小神であればまたここで何かしらのちょっかいを出す類のものであっただろう。