宣言通り、残業をせずに定時で帰れる。今日は、東堂さんが残業。流石に五十嵐さんも定時で帰るようだ。それに、今日は金曜日。明日明後日は、定休日で休み。いつもなら、帰りにコンビニでお菓子や惣菜、酎ハイ1本を買って帰る。そして、家で晩酌しながら映画を見るのが私の金曜日の過ごし方。
なんと寂しい奴なのかと言われても、私にはこれが有意義な過ごし方なのだ。同僚や先輩方と飲みに行くことも稀にあるが、やっぱり一人で宅飲みは楽だ。家に帰る途中、居酒屋を見ると入りたくなるけれど、まだ一人で居酒屋デビューをする勇気はない。マンションの傍の所は、一人デビューを果たしたが、まだ少し緊張する。マスターはいい人なんだけど。
「ごめん、お待たせ!」
「俺も今来たとこだし、弓弦がまだ来てないから大丈夫。」
「え、弓弦が一番遅いのかぁ。」
「あと少しで着くらしいけどな。」
そう言って、スマホを私の前に突き出す。画面には”お前のややこしい名前のせいで、彼女に捕まったから少し遅れる”との文字が。私の方には、全く返信をして来ないのに、ハルにはマメに返してるのか。自分に都合の良い時は、返信早いのが腹立つ。どうせ、彼女に捕まった時に面倒くさそうな顔をしたんだろうな。3回ぐらい会ったけど、女の子らしい感じの子だった。最初の時は、浮気相手だと誤解されかけたけど。まぁ、姉とカフェ行く弟は中々いないか。
「名前、遙だもんねぇ。」
「…ちょっと馬鹿にしてるな。」
「ハルにピッタリだと思うよ。」
「絶対馬鹿にしてる。」
「ホントだって。綺麗な名前だって。それに、目を引くようなイケメンだし。」
「金髪で、デカいからだろ。」
それだけだったら、一瞬見て終わる。女の子達がじーっと見ながら、通り過ぎていく。中には顔を赤らめている子もいる。それなのに、見られている本人は無視だ。多分、寄って来ないのは近づきにくいオーラがあるからで。顔を隠すかのような前髪の長さ。多めのピアス。私が来るまで、音楽を聞いていたみたいだ。