金欠になった時、弓弦は私に連絡をする。そして、ご飯を奢らせる。可愛げのない弟だけど、夜は家まで送ってくれる紳士的な所もあるし、仲も良いので一緒に買い物をする時もある。金銭面以外は、いいヤツなのだ。

「明日…、今日の夜って暇?いつもこの時間帯に帰んの?」
「特に予定はないかな。いつも6時とか、7時ぐらいには帰れてるんだけどね。多分、それぐらいに帰れるとは思う。」
「じゃ、それぐらいの時間に飲みに行かない?本当は、今からって言いたいとこだけど遅いから。」
「うん、いいね。弓弦の連絡先知ってる?」
「あー、知らない。伊織の教えてもらっていい?そんで、後で弓弦の教えて。」
「わかった。」

多分、今日は定時で帰れる筈。急なご要望さえなければ。でも流石に、またやり直しを食らったら納品に間に合わない。他の人も残業続きでやって、間に合うかどうかぐらい。今でも結構ギリギリなのに。

お金をもらっているから、良い物を作らないと駄目な事はわかっているんだけどな。まだまだ、私は能力不足だ。自分では良いデザインでも、クライアントがそう思ってくれるデザインとは限らないし。

画面に永瀬遙と表示され、追加ボタンをタップする。人の連絡先を聞くという行為が苦手で、いつも人から聞かれるのを待つ。そんなだから、人間関係が狭いんだろうな。

「家まで送る。」
「すぐそこだから平気。ハルも早く帰らないと。寝不足で飲んだら、すぐ酔いが回るよ。そうなったら、その場に放置して帰るからね。」
「うわ、薄情な奴。その言葉、そのまま返すし。」

送ってもらう事は断ったのに、歩道橋を降りて見えなくなるまで、ハルは私を見送ってくれた。

今からお風呂に入って寝るとなると、少なくても4時間は寝れるか。お互い、寝不足で酔っ払ったら弓弦に任せよう。介抱雑そうだけどな。それこそ、本当に放置して帰りそうだ。