いよいよ到着した社長室前。

ちゃんと社長に意思を伝えようと、気合を入れたものの。


「ちょっと待って」


あたしはある一つのことが引っかかって、ノックしかけた手をピタリ止める。


「あたし、アイドル辞めるの嫌だけど、修平と別れるのも嫌だよ」


そう。

流れのままに、ここに来ちゃったけど。

アイドルを辞めないってことは、同時に修平と別れることになるわけで……。

そうやって考えを巡らせている時。


「大丈夫です」

「その思いごと、全部ぶつけろ」


ふたつの、力強い声が降ってきた。

あたしは驚いて、素っ頓狂な顔をしてしまう。


「おも、い……?」


“アイドルも辞めたくないし、修平と別れることも嫌だ!”

そんなワガママなこと、言っていいのかな。

すぐに激怒した社長の顔が目に浮かんで、心に計り知れないほどの不安が渦巻く。


もしかしたら、怒られるだけじゃ済まないかもしれない。

事務所自体を辞めさせられる可能性だって、きっとあるのだ。


──だけど。



「できるな、沙弥?」


修平の、日野っちの、頼もしいふたりの顔を見たら。


「うん!」


頭には、頷く選択肢しかなかった。