Side of 遼 ❤❤❤

 順調に単位を取得し、就職活動も佳境に入った大学四年の秋。
 俺たちは就職活動と卒業論文の板挟みの生活を送っていた。
 ハルは第一志望の旅行会社にスムーズに内定を決め、香奈も大手化粧品会社に決まった。大輔はエントリーシートを三十社断られるもスポーツ用品店の最終面接に手応えを感じていて、実質返事を待つだけだ。
 かくいう自分も学校教材を扱う出版社の最終面接を控え、落ち着かない日々を送っていた。
 アルバイト先のオーナー夫婦は昨今の就職戦線への理解が深い。
 今年の頭に『一生のことだから、無理しなくていいよ』と提案を受け、甘えさせてもらうことにした。
 最後の勤務日は閉店後の店内で三人で食事を楽しんだ。悪いとは思いつつも、ハルには遠慮してもらった。
 オーナー夫婦に『卒業と同時に店を閉めるつもりだ』と告白された時は俺の責任かとおこがましい気持ちを抱いたが、お二人の夢を伝えられて胸が熱くたぎった。
 寡黙な旦那さんが『ハルちゃんが大好きだったから』とふわふわオムライスの秘伝レシピを教えてくれたので、終始唇を噛んでいないといけなかった。
 ほろ酔いになった奥さんが『まるで本当の―――』と言い淀む痛切な気持ちが伝わってきて胸が張り裂けそうになった。
 毅然とするお二人に『同じように思っています』とお礼しか伝えられない自分が情けなくてたまらない。
 アルバイトでここまで親身に接してくれるなど期待していなかった。ほぼ、まかない飯が目的の世間知らずな若造にここまでしてくれるなど夢にも思わない。
 最初で最後の三人揃ってのふわふわオムライスは塩辛い味がした。