親愛なるハルへ

 愛することは、呼吸をするのと同じ。
 それは生きること。

 家族、友達、仲間、かけがえのない恋人。
 愛する気持ちが、大切な人を守るために強くなりたいと人を成長させる。
 愛されることで気力が満たされ、自信を持ち、前向きに生きていられる。
 もし誰にも愛情を注げなかったら、
 もし誰にも愛されなかったら、
 人はたちまち呼吸困難に陥ってしまう。

 本当に大切なものは目に見えなくて、ふれることすらできないと君は教えてくれた。
 君がどれだけ俺を想っているか、俺がどれだけ君を想えているのか。
 君がどれだけ俺を愛しているか、俺がどれだけ君を愛せているのか。
 心は目で見ることも、手でふれることもできない。
 このあたたかい感情に人は『愛』と名付けた。
 目に見えない感情を何とか形で表したくて、伝えたくて人は苦しくなる。
 一生懸命に言葉を綴った手書きのラブレター。
 真心のこもった贈り物。
 自分だけのとっておきの場所をかけがえのない人に教える。
 ありふれた毎日の中で、伝えても伝えても伝えきれていないと不安になってしまう。
 慣れきった日常の中で、どれだけ『ごめん』より『ありがとう』を言えただろう。
 疲れきった通学通勤の中で、どれだけ愛の場面に出逢えただろう。
 君は俺が見ている世界をひっくり返して見せた。
 世界は暗くて、汚くて、冷たいのではなく、
 世界はまぶしくて、美しくて、温かい。
 俺がどうしようもなくなった時、すばらしい世界が見えなくなったのは、君が隣にいないからではなく、俺の心が曇っていたからだ。何より、しっかり自分と向き合わなければならなかった。
 日々懸命に生きているけれど、どうしようもなく寂しい時は、君が隣にいた感覚を思い出そうと空港に行くようになった。
 そう、君と観た映画の実践だ。
 国際線到着ロビーは家族、友人、恋人との再会を喜ぶ人たちでいつもにぎやかだ。
 どうしてだろう。ごく当たり前の再会を見ているだけで涙がこみあげてくる。
 言葉も文化も異なる人たちが全身を使って愛を伝えあう光景は、とても心が安らぐよ。
 この長い手紙を書いているのも、国際線の到着ロビーだ。
 通っている内に不審に思われたのか空港の警備員に声をかけられ、正直に事情を話したらどういう訳か気に入られた。これもめぐり逢わせで一杯やりに行って友達になった。
 今は同い年の清掃スタッフも加わって、三人で飲み屋のテーブルを囲む仲だ。
 世界との玄関に座っていると、日本だけど日本じゃないみたいだよ。積極的、消極的なのはお国柄や人柄によって異なるけれど、多くの観光客が気軽に俺に話しかけてくれる。
 天気やフライトの遅延にはじまり、気のいい人は家族や友人の写真まで見せてくれる場合もある。
 他にも退屈そうな子供たちとにらめっこしてくすくす笑い合ったり、迎えの時間を持てあます人に上手とは言えない手品を披露したりと、一期一会の出逢いを心から楽しんでいる。
 俺は拙い英語しか話せないけれど、親切なみんなのお陰で何とかうまくやれている。
 笑顔を見るだけで心は繋がっていると感じるんだ。
 人が人を想うのに国境なんて関係ないんだって、ここを訪れるみんなが教えてくれた。
 まるで『フォレスト・ガンプ』のベンチみたいだけれど、場所は『ターミナル』ってどちらもトム・ハンクスだね。
 『袖触れ合うも多生の縁』だと身を持って学んだよ。
 人は一人ではなくてみんなが繋がっている。
 ささいな縁で出逢い、縁が深まって絆になる。

 長い前置きだけれど、もう少しだけ付き合ってほしい。
 二度と戻れないあの頃を求め、君と訪れたたくさんの場所を再訪した。
 君と並んで歩いた景色で変わらない場所を見つけるのも一苦労だ。
 想い出の場所と風景がどんどん変わっていく。
 人も変わる。心も変わる。
 変わらない場所を探して、変わらない場所にほっとして、そして一緒に行きたいと思う場所を訪れるようになった。
 当然、俺が君を想う気持ちも変わった。
 あの頃のままではなく、さらに身を焦がすほど強く君のことを想うんだ。

 そう。
 これは世界に一つしかない君と俺の物語。
 君が伝えてくれた温かい言葉を織り交ぜて綴った物語だよ。
 拙い文章は当時と変わらないけれど、君が喜んでくれたらこの上なく嬉しい。
 やっぱり俺たちが出逢ったあの場所から語りはじめたいと思う。
 かけがえのない時間を過ごしたあの時から。