――ポチャンと水の落ちる音が聞こえた。

鼻をかすめるのはさびれた鉄の匂い。

やけにここは肌を突き刺すような寒さが襲いかかってきた。

震えて鳥肌を立たせるも、抱きしめてくれる人はいなかった。

身体を少し動かせば、金属が石に擦れる重たい音が響き渡った。

レイリアが目を覚ますと、そこはひどく悪臭が漂う牢獄の中だった。

ここには小さな窓もない。

あるのは鉄格子の扉だけで、薄暗い光がかろうじてレイリアの視界をクリアにしていた。


「ルイ……」


誰よりも大切な人が傍にいないことに不安を覚えたレイリアはその場から立ち上がろうとする。

だが逃走の際にくじいた足の痛みがレイリアに立つことを許さなかった。

身体は冷えて寒いのに、足首だけが熱を持っていてじんじんと痛んだ。

あぁ、そうか。追手に捕まってしまったのだ。

それに気づいたレイリアは溢すように失笑した。

渇いた笑い声が牢獄の中に響き渡る。

それと同時に遠くから石の上を歩く足音が聞こえてきた。

その音に顔をあげると、生まれたときからずっと見てきた顔があった。


「お父様……」

「……久しいな、レイリア」


すらりとした美しい体格をした威圧感のある中年の男性であった。

レイリアよりも深い色をした蒼い瞳が牢獄に繋がれた娘を眺めていた。

父の姿を見るとわなわなと身体が震えだし、目尻が吊り上がっていく。

溢れそうになる涙をこらえて、レイリアは父に向かって咆えた。


「信じてた……。お父様は私のことを愛して下さっていると信じていました!!!」


悲痛な叫びが響き渡る。

その叫びに対し、王は鼻で笑う。

あまりに非情な顔をした王に対し、レイリアは絶望の色を顔に写した。

王は嘲笑っている。

本当の娘ではないにしろ、十七年間育ててきた娘を嗤ったのだ。

悔しくて悲しくて、レイリアは唇を固く噛みしめ、王に顔をそむけた。

眉根を寄せて難しそうに目を細め、レイリアを見る王の姿はあまりにも冷たいものであった。


「……時が経つのをずっと待っていた」

「え……?」

「極彩色の花娘。国の未来を守るために殺すべき対象だった。十八年間、この時を待った」

「……私は、殺されるために育てられたのですね」


その言葉に王は返答しなかった。

レイリアの碧い瞳から涙が零れ落ちる。

皮肉にもその涙はまるで真珠のように美しかった。