タクシーが緋之宮家に到着すると、繭子は迎えてくれた使用人たちに顔色の悪さを指摘され、部屋で休息を取ることになった。街で瘴鬼に遭遇してからというもの心臓の鼓動が激しく脈打って、なかなか収まらなかった。

「(違う……瘴鬼じゃない)」

 ——血だ。

 瘴鬼の口元についた夥しいほどの血。
 女性の首に付いた噛み痕。

 その光景が頭から離れず、自分が自分でなくなるような感覚に陥る。人が血を流している場面に、自分は何を思った?

 考えれば考えるほどに喉の渇きを感じた。
 部屋のテーブルに用意されていたウォーターピッチャーを手に取って喉を潤しても満たされず、それどころか次第に強烈な渇きへと変わってゆく。

 喉の中が熱く、灼けるような感覚。

 徐に口元に触れると、今までなかった感触に驚いて立ち竦む。自分の歯に、それまで存在しなかったはずの牙が生えていた。

「(どうして……いつの間に……?)」

 部屋のドレッサーの前でそれを確認すると呆然と立ち尽くした。

 突如生えた牙。

 血への執着心。

 自分を襲った看護師の女性や会社員風の男性と同じ瘴鬼という事なのだろうか。繭子はその場にしゃがみ込んで受け入れがたい状況に絶望した。