調査の方向を間違えたら、亮二さんの依頼も、僕の依頼も契約解除……。
「どっち……?」
 僕は、二人に呟くように問う。
「ユウ……」
 その問い掛けに亮二さんの目が、僕の心情に気づいた事を示した。

「どっちが『リスク』を感じたの?」

 僕は、彼らに強い目を向けて聞いた。
「そういう事だろ。その話」
 僕のその言葉に、彼らは顔を見合わせて静かに笑った。
 そして、亮二さんが僕を見ると問う。
「リスク回避手段は?」
「判断力」
 即座に答える僕に亮二さんは、静かに二度頷いた。
「了解」
 亮二さんは、笑みを見せながらそう言うと、席を立った。
「亮二さん」
 僕は、まだ何も聞いていない。
 この写真に辿り着く、一つの答えを。
 呼び止める僕の声に振り向く彼は、微笑みを見せていた。
 その笑みは、何か意味を感じさせる。
 言葉の間があいていく事に、淳史さんさえ何も答えず、淳史さんの目線は、僕たちの誰も見ていない。
 僕は、その先のリスクを察したが、そのリスクに向かうのは、亮二さんだという事が分かった。
 だから彼は、その事には答えない。
 気に掛かる言葉を僕に残したまま。
 でも僕には、彼が言ったその一言が……。

『了解』

 僕に対しての彼の合図だと、僕は気づいていた。

 亮二さんの足が一歩を踏み出すと同時に、ライターのカチッとした音がし、淳史さんがタバコに火を点ける。
 淳史さんは、吐き出す煙を見つめながら、店を出て行く亮二さんに、目を向けずに言った。
「亮二。お前だけに背負わせるつもりはないからな」
 亮二さんは、肩越しに彼を振り向くと、ニヤッと笑みを見せて、言い返す。

「だったら、酔っ払ったフリはやめて、追え」

 彼の言葉に淳史さんは、ははっと楽しそうに笑って答える。
「了解」
 亮二さんは、その言葉を聞くと、ふっと笑って店を後にする。
 歩きながら彼は、僕たちに言葉を残していく。

「間違えるなよ。見誤った時点で、俺たちの負けだ」

 淳史さんは、何かを考えているようだったが、タバコの火を消して、席を立つと、カウンターの中へと入って行く。
「淳史さん……ちょっと勝手に……」
 そういえば、圭介さんの姿が見えないが、どこにいるのだろう。
 亮二さんが店に入って来れたんだから、鍵は開いてたって事だろ。
 僕たちは寝ていた訳だし……。不用心じゃないか……?
 そんな事を考えながらも、淳史さんの行動の方が気に掛かる。
「淳史さん、何やってんだよ?」
「酔っ払ったフリ、やめろって言うから」
 僕の聞きたい答えとは逆に、亮二さんに言われた言葉に反応を示している。
「何言ってんの……? どういう事……」
 淳史さんは、スピリッツやリキュールが並ぶ棚から、何かを探しているようだ。
 僕も席を立ち、カウンターへと向かった。
「うーん……」
 淳史さんは、多種類に並ぶ酒の瓶に、答えを見つけるかのように目を動かす。
 彼の目と指が、瓶を追う。
 その動きが一箇所で止まったと同時に、店のドアが開いた。

「無いよ」

 入って来たのは、圭介さんだった。
 淳史さんが止めた指先には、そこに一瓶あったであろう隙間。
「圭介さん……?」
 僕は、淳史さんが瓶を探している事を、圭介さんが気づいている事に驚いていた。
 圭介さんが、僕たちのいるカウンターに来た。
 彼は、抱えている紙袋から、瓶を取り出し、カウンターに置いた。
「そこにあったのは、コレだよ。 淳史」
 それは、透明の瓶に入っている、黄色いリキュールだった。
 カウンターに置かれたそのリキュールは、ライトに照らされ、黄金色の光を放つようだ。
「もしかして……圭介さん……ショウさんに?」
 淳史さんの言葉に、圭介さんが頷く。
「極端に減るのが早いものはないかってショウがね……。言われてみれば、減りが早いんだ。ここ数日でね」
 圭介さんは、ふうっと息を吐くと、椅子に座る。
「コレは薬草、香草系のリキュールだ。まあ、コレは飲みやすいけど、果実系のリキュールに比べると、好みがあるからね……」
「成程ね……。ショウさんが気になるのは、それだからだろ」
「そうみたいだね。ショウ……さっきまで外にいたんだよ」
 オーナーが……? どうして……。
 僕は、窓の外に目を向けたが、当然、姿など見える訳がない。
「淳史……」
「ああ、分かってる。ショウさんは、そうやって教えてくれたから」
 淳史さんは、カウンターに置かれたリキュールの瓶に手を触れる。
「だから分かった」
「淳史さん……?」
「口に出来ないなら、気づくように残せばいい。それを伝える手段があるって事……」

 淳史さんは、瓶のラベルを僕に見せるように向けた。
 契約解除になった依頼。
 その意味を伝える人物がいる。
 酔っ払ったフリって……。
 淳史さんが今日ここに来たのは、それを知る為……?

「『ストレガ』……形容される言葉は、太陽の光線の溶液。だが……」
 淳史さんの目が、僕の目をじっと捉えながら言う。

「その意味は『魔女』……どうやら、見間違えてしまう何かがある事は、確かなようだ」

 一体誰が……? 一体何を……?

 亮二さんは、きっと近付き始めてる。

『間違えるなよ。見誤った時点で、俺たちの負けだ』