「……っ!」


咄嗟に唇を噛み締めたのは、瞳の奥から込み上げてくる熱に気づき、なんとしてでもそれを堰き止めたかったから……。


ここで涙を零してしまったら、私はきっと本気でクロに縋ってしまう。


彼と離れたくはないけど困らせたくもなくて、様々な感情でグチャグチャになっている心の中をごまかすように必死に口角を上げた。


「なに本気にしてるの? もう口煩く言われなくて済むと思うと、せいせいするよ」


発した声が震えないように努めたのに僅かに掠れてしまったから、たぶん私が必死に隠そうとした心の中の感情たちは伝わってしまったと思うけど、クロは少しの間を置いてから瞳を伏せてフッと笑った。


「久しぶりにそういう千帆を見たよ。最近は雰囲気が柔らかくなってたけど、出会った頃はいつもこんな感じだったな」


「なんだか懐かしい気もするよ」と零した彼が、私を見つめながら微笑した。


クロが気づいていない振りをしてくれたことがわかって安堵する反面、やっぱりなにも変わることはないのだと察してまた悲しくなってしまう。


あと二日間の中にある残された時間で、私はなにができるのだろう……。


それはわからないけど、せめて最後は泣かないようにしよう、と密かに誓った──。