「お疲れ、千帆」


公園に着くと、クロはいつもと同じ場所にいて、ベンチの背もたれに背中を預けながら「ちょっと遅かったな」と微笑んだ。


「先生と話してて……」


本当はもっと早くここに来たかったのに、時計は二十一時半過ぎを指している。


『どんなに遅くても十時までにする』と最初に決めた彼と一緒にいられるのは、残り三十分もないことに悲しくなった。


「どうした?」


「進路のこととか、色々あって……」


座るように促したクロの言う通りにして腰を下ろすと、彼が瞳を伏せていた私の顔を覗き込んだ。


「進路、決めたか?」


心配の色を携えた苦笑を前すると言葉にできなくて、首を小さく横に振って答えた。


ため息が零されたあとに困ったように微笑まれて、呆れられてしまったのだと感じたけど……。


「真剣に考えないといけないけど、あんまり思い詰めるなよ」


程なくして笑みを浮かべたしたクロは、優しい口調でそんなことを言った。


「え?」


「千帆、ひどい顔してる。ちゃんと寝てないだろ?」


寝不足なのは進路について悩んでいるからではなくて、彼のことを考えているせい。


そんなことは言えないけど、クロに心配してもらえていることが嬉しいと思ってしまった。