負の感情が鉛となって、心に沈んでいく。


一ヶ月をこんなにも早く感じたのは初めてのことで、いつの間にか大切になっていた時間がなくなってしまうのが怖かった。


「ねぇ、クロ」


訊いてはいけない。


きっとなにも変わらないから、余計に悲しくなってしまうだけ。


「こうして会うのも来週で終わり……なんだよね……?」


それを頭では理解していても心が追いつかなくて、わかりきった答えが返ってくることを知りながらも尋ねていた。


クロは困ったように微笑し、私の瞳を真っ直ぐ見つめた。


「最初に約束しただろ。……それに、俺は来週この街を去るんだから」


それは、『もう会うことはない』と言われているようだった。


今の時代、スマホが普及して交通機関だって発展しているのだから、その気になれば生きている限りはどこにいたって“もう会えない”なんてことはないはずなのに……。


「だから、千帆の誕生日が最後だ」


彼は真剣な顔をして、きっぱりと『最後』という言葉を言い放った。


胸の奥がギュウッと締めつけられてズキズキと痛み、息の仕方を忘れてしまいそうになる。


だけど……。


寂しさも不安も素直に見せることはできなくて、必死に納得した振りをして頷いた──。