「どうかな。なにも約束してないし、そもそも受験生だしね」


あくまでいつも通りのクロに寂しさを感じているのに、向けられた笑顔を嬉しいと思ってしまう。


寂しさと切なさを癒やすようにも感じるその感情に、そっと微笑が零れ落ちた。


「夏なんだから、受験生だって祭りくらい行くだろ。約束してないなら、明日千帆から誘ってみればいいよ」


「それはちょっと……」


「なんで?」


「だって……まだ友達って言ってもいいのかわからないくらいなのに、お祭りに誘うなんて……」


堀田さんも中野さんも私のことを友達だと言ってくれたけど、私はまだ胸を張って同じようには言えない。


それはやっぱり、あの頃の記憶が鮮明だからで、少しずつ前に進んでいるつもりでもまだ心は縛られている部分があるのだと思う。


「ちょっとずつ成長してると思ってたけど、その辺はまだまだだな」


困ったように微笑む彼が、「まったく……」とため息をついた。


もしかしたら、クロはこの時間がなくなってしまったあとのことを考えているのだろうか。


「千帆がちゃんとやっていけるか、心配だな」


その予想は当たっていたようで、彼のセリフの冒頭にはたぶん『俺がいなくなっても』という言葉が隠されていた。