「もうすぐっ、もうすぐっ……あと少しで家だ」

 夏虫が寝静まった田畑の夜道。誠(まこと)は死に物狂いで走っていた。

 すでに息は切れ切れで、空気を入れる度にぎしぎしと肺が痛む。動かす足は今にも攣(つ)りそうで、振り子のように前後へ振る腕は痺れ始めていた。

 季節が真夏ということもあって、こめかみを伝う汗は玉のよう。体中の水っ気がなくなりそうな勢いだ。

 それでも。誠は足が止められずにいる。

 ざっ、ざっ、ざっ。
 ざっ、ざっ、ざっ。

 背後から土草を荒々しく踏み分ける音が聞こえた。
 その音は近くもなく、遠くもない。しかしながら、確実に誠の背中を追って来る。おかげで恐怖心が増した。誠がいま死に物狂いで逃げている理由は、追って来るその音にあったのだから。

――ようやっと見つけた。千歳狐(ちとせぎつね)。

 ああ。ほら、追い風に乗って。

――ずっと、ずっと、探していた。

 妙ちきりんな声が聞こえてくる。


――千歳狐、ああ、選ばれし千歳狐。我らの呪(のろい)を解き放つ者。