『あしはらいづると言います。読みづらい変な名前ですけど、よろしくお願いします』


笑うと少年みたいで、急に愛らしくなった。
その劇的な変化に女子社員が何人もため息をついたのを覚えている。

ITマネジメントグループに配属され、後輩になった彼は、見本のような良い新人だった。

OJTについた与野がよく言っていた。
あいつは見どころがある。こんな小さい会社にはもったいない。逸材だ。

手放しに褒めるのは、与野が素直で単純な性格だから?
そんなに出来すぎな後輩っているのだろうか。

なんとなく、葦原五弦という青年に違和感を感じたのは、それが最初。

同僚たちはあっという間に彼に魅了された。
彼の微笑みは愛嬌たっぷりだった。性格の良さは折り紙付きだった。非の打ち所がないのだ。

私だけその波に乗れなかった。
違和感のある笑顔で見つめられても、ごまかして瞳をそらしたし、会話はなるべく避けた。

彼の存在が私とは相容れないものだと感じられた。
見ているとモヤモヤとした黒い雲が胸の中に広がる。

結果として、それが葦原五弦の目につき、こんなことに巻き込まれたわけなのだけれど。